「お客さんを眠らせることが目的だから。」
僕は照明演出の活動をしている。お客さんが瞳を閉じてしまえば、視覚的表現への評価は存在しない。しかしこの言葉を、頂のBOSSは当たり前のように語る。僕は照明家として、眠らせることを要求されたことなどなく、困惑した。しかし同時に、光の可能性の種を撒かれたようで、新たな課題に興奮もしていた。
ITADAKIとの出逢いは、吉田公園に移って2度目、2012年。場所はムーンステージ。
親愛なる友人、諸先輩の導きで、僕はその機会に恵まれた。
幼い頃から、火と音楽が大好きった。そんな中、音楽のライブにて光のコントロールをするチャンスがあり、一瞬で照明の魅力に心を奪われた。観衆を操ることも出来得る表現方法に、可能性を感じた。そんな光の道に進んで7年が経つ頃だった。
初日の夜、静けさのなかにジプシーソングが鳴り響く。僕の心に撒かれていたITADAKIの種が芽吹いた夜。静岡にITADAKIあり。そう実感するには、一夜で十分だった。
2012年当時は、電力使用に対するさまざまな風が、全国各地で吹いていた。国内の発電機は東北へ運ばれ、電力の使用制限も設けられた。
そんな状況下でも、バイオディーゼル燃料発電を利用しているITADAKIは、その風を力強くも、優しくもした。
皆を安心させ、電力問題への違和感を覚えることなく、音楽や、表現ができる。当たり前で稀なこと。
浜石岳で生まれ、日本平で育み、年輪を積み重ねてきた-ITADAKI-の幹が強い証だ。
先のSTORYに登壇した石田さんを始め、BOSSの実行力と、廃油を集めてくれているあなたのエネルギーがその根っこ。深く感謝します。
2013〜14年は、初めての装飾照明に取り組んだ。
駐車場からメインゲートの間にある、花壇の演出だ。
吉田公園が海に面することをヒントに、昔[浮き]として利用されていたガラス球を使った。
会場の花壇を手入れしている用務員さんとは、ガラス球への懐かしさで、話が弾んだ。
お客さんが、心地良く安全な帰路に着いてもらえるようにと願いを込めて、大事に大事に作り上げた。
2015年、BOSSから、ムーンステージの装飾、照明演出の取りまとめという機会をいただいた。
そしてあの言葉が舞い降りた。
-Midnight Landing-
「お客さんを眠らせることが目的だから。」
眠れる音楽が大好きな僕は、その挑戦に心がときめいた。
美術家・画家・庭師・照明家の仲間達に、僕は協力を仰いだ。
演奏者とともに、新たな命が注がれた流木、絵画は地となり、花木は風をあらわす。映写された光と一緒に、僕もステージを優しく輝かせる。
-Midnight Landing-テーマと呼応するよう、客席を照らす照明演出は極力控えた。
2016年も、同じメンバーでの演出を決断し、より質を高め、再構成して臨んだ。
人間が快適に眠るためには、煌々とした明かりは不必要。あるのはリラックスタイム。
瞳を閉じても、夢の中でも、ITADAKIの情景が浮かび上がるようなステージを目指し、1曲1曲に想いを込めて照明に努めた。大きなITADAKIの木に抱きつくように。
STORY第一話にて、BOSSは自身のことを二流と述べていたが、決してそんなことはない。会場にいる全員が居心地の良さを感じられることに、情熱を注いでいる。大地に根っ子がひろがり、伸ばした枝葉で木陰をつくりあう。そうして頂ファンは増えているのだろう。そんな僕も、頂ファンの一人だ。
10年の年輪を迎えるITADAKI2017。今年も僕は、仲間達とムーンステージに花を添える。また新たな種を芽吹かせたいと思っている。
今年は更に、心地良い眠りをお届けします。
吉田公園と、夢の中で会いましょう。
Happy landings!!