高木正勝の「頂‐ITADAKI-」出演と言えば、2017年のキャンドルタイムが記憶に新しいですね。あれから2年。個人的には「もしかしたら今年の全出演者の中で一番過激なことをやろうとしているんじゃないか」と思っています。
今更説明するのも野暮ですが、彼が2017年から取り組む「Marginalia(マージナリア)」シリーズの楽曲は「自然との対話」によって生み出されています。京都の里山で、自宅スタジオの窓を開け放ってレコーディングした、日記のようなピアノインスト曲で、それぞれには固有のタイトルではなく作品番号だけが記されています。「Marginalia #1」「Marginalia #2」といったように。
ここで告白すると、わたし、当初はそんな情報から「起伏の少ない環境音楽のような作品なのかな」と思っていました。ところが、2018年、2019年に相次いで発表されたアルバムを聴いてびっくり。散らかった印象は全然なくて、1曲1曲に詩情豊かで端正なメロディーが満載です。
雨の音や虫の声が「ノイズ」のように入っている曲もあるけれど、それ以上にピアノが奏でる音が風景を雄弁に語っていますね。差し込む光、部屋に出入りする空気の動き、演奏者の周囲にある草花の色や香り…。そうしたものが、ダイレクトに伝わってくる。よく聞くと、ピアノのキーが上下する音、ハンマーがピアノ線を打つ瞬間の音も耳に入ってくる。生々しい音の極致!
これを高木正勝は、初夏の吉田町でどんなふうに表現するんだろう。考えただけでも身震いがしてきます。つまり、京都の山奥で周囲との関係性をベースに「完結」させた楽曲群を、あえてオープンエアーのフェス会場に持ち出そうというんです。自分が作った楽曲の「耐性」を試そうとしてるんじゃないでしょうか。
頂の日曜日午前と言えば、お客さんが三々五々集まってきて、自分たちの場所を定め、人によっては「きょうの1杯目」を買い求めたり。そんな、ありていに言えば「わちゃわちゃ」とした時間帯ですよね。
そこに、山里の風景と密接不可分な「Marginalia」の楽曲を持ち込む高木正勝。これは、とても実験的で挑発的な行為だと思います。山で生まれた「Marginalia」たちが、広い空の下で海風に吹かれ、どんな熱を帯びるのか。おそらく、高木自身もその異化作用を楽しみにしているんだと思います。
19 – Girls (Live) – Masakatsu Takagi
高木正勝 – きときと – 四本足の踊り @ 頂 -ITADAKI- 2017